遺贈による所有権移転登記
遺贈とは
「遺贈」という言葉自体を聞いたことがない方もいると思いますが、一言でいえば「遺言で贈与する」ということです。つまり、遺言によって、遺言者の財産を無償で譲与することです。
一般的には、遺言者が相続人以外の第三者に、財産を贈与する場合に利用されます。
遺贈と贈与は、いずれも無償である点は同じですが、遺贈は遺言者の一方的意思表示による単独行為であるのに対し、贈与は贈与者(あげる人)と受贈者(もらう人)との契約による双方行為です。
また、遺贈は遺言者の死亡によって効力を生じますが、贈与は、原則として契約成立と同時に効力が生じます。
<ここがポイント!>
☑ 遺贈とは「遺言」で「贈与」すること
不動産を遺贈した場合
遺言書に不動産を遺贈する旨の記載があった場合、財産をもらった受遺者名義に不動産の名義を変更しなければいけませんが、これが遺贈による所有権移転登記です。
なお、相続による所有権移転登記は、相続人からの単独申請ですが、遺贈は遺言に基づく登記とはいえ、贈与の一種なので、受遺者が単独で申請することができず、遺言者の相続人全員もしくは遺言執行者との共同申請となります。
ただし、遺言書の中で、財産をもらう受遺者自身が遺言執行者に指名されている場合は、登記権利者たる受遺者及び登記義務者たる遺言執行者として1人で登記の申請が可能です。
<ここがポイント!>
☑ 遺贈の登記は登記義務者(相続人全員もしくは遺言執行者)との共同申請
遺言執行者は家庭裁判所に選任してもらえる
遺言者はあらかじめ遺言書の中で遺言執行者を指名しておくことができます。もし、遺言執行者が指名されていれば、遺贈の名義変更手続きは遺言執行者と受遺者が共同しておこないます。
しかし、遺言執行者が指名されていない場合は、原則的に遺言者の相続人全員が登記義務者として関与しなければいけないので、相続人が遠方であったり、相続人が多数であるような場合には、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらうのも選択肢の一つです。
また、申立ての際は、「遺言執行者の候補者」を記載する項目があり、受遺者自身を遺言執行者の候補者にすることもできるので、そのまま受遺者が遺言執行者に選任されれば、受遺者が登記権利者兼義務者として、1人で名義変更の手続きをすることができます。
よって、登記義務者である相続人の協力が得られないような場合は、家庭裁判所に遺言執行者選任の申し立てをするのがよいでしょう。
なお、遺言執行者選任申し立てについても、当事務所でお取り扱いしていますのでお気軽にご相談ください。
<ここがポイント!>
☑ 受遺者自身を遺言執行者に選任してもらうこともできる
相続人に遺贈する遺言と登記原因
遺言書では、原則的に相続人に対しては「相続させる」と記載し、相続人以外の第三者には「遺贈する」と記載します。
しかし、自筆証書遺言は、法律に詳しくない一般の方が作成するので、本来であれば相続人に対して「相続させる」と記載するところを「遺贈する」としてしまっている場合があります。
この場合、登記原因も遺言書の文言どおり「遺贈」となってしまい、登記申請も受遺者である相続人と遺言執行者もしくは相続人全員との共同申請になってしまいます。
しかし、これには例外があります。それは、相続人全員に対して、相続財産の全部を包括的に遺贈した場合です。
例えば、遺言書に「遺言者Aは、その財産のうち5分の3を妻Bに、残りを子に均等に遺贈する」とある場合は、遺言者Aの相続財産全部の処分を受ける者が相続人全員なので、遺言書の文言は「遺贈」ですが、登記原因は「相続」となります。
これに対して、遺言書に「財産を孫に相続させる」旨の記載があっても、孫は相続人ではないので登記原因は「遺贈」になります。
<ここがポイント!>
☑ 遺言書に「遺贈する」とあれば、登記原因も原則的に「遺贈」となる
遺贈の登記と住所変更登記
遺贈による所有権移転登記を申請する際も、登記義務者である遺贈者の登記上の住所と住民登録上の最後の住所地が異なる場合は、住所変更登記を申請しなければいけません。
とはいえ、すでに遺贈者は死亡してしまっているので、住所変更登記は遺贈者の相続人(1人でも可)または遺言執行者がおこなうことになります。
もし、相続人もしくは遺言執行者が住所変更登記をおこなわない場合は、受遺者が遺言者に代位して単独で住所変更登記を申請することも可能です。
つまり、住所変更登記は、遺贈者の相続人、遺言執行者、受遺者のいずれからも可能というわけです。
<ここがポイント!>
☑ 遺贈者の登記上の住所が最後の住所地と異なる場合は住所変更登記をする
遺贈の登記に必要な書類
遺贈の登記は遺言執行者がいる場合といない場合で必要書類が異なるので、まずは遺言書で遺言執行者が選任されているかどうかを確認してください。
もし、遺言執行者が選任されていない場合は、相続人全員と受遺者との共同申請となりますが、すでに述べたとおり家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらうこともできます。
遺言執行者がいる場合
遺言書
※自筆証書遺言は家庭裁判所で検認済のもの
遺言者が死亡した記載のある戸籍謄本(除籍謄本)
遺言者の住民票の除票もしくは戸籍の附票
※遺言者の登記簿上の住所と戸籍謄本の本籍とを関連づけるため
遺言執行者選任の審判書
※家庭裁判所が遺言執行者を選任した場合
当該不動産の登記済証もしくは登記識別情報
遺言執行者の印鑑証明書
※3ヶ月以内のもの
受遺者(もらう人)の住民票
固定資産税評価証明書または固定資産税の納税通知書
運転免許証、保険証などの身分証明書
※遺言執行者と受遺者の本人確認のため
遺言執行者がいない場合
遺言書
※自筆証書遺言は家庭裁判所で検認済のもの
遺言者が死亡した記載のある戸籍謄本(除籍謄本)
遺言者の住民票の除票もしくは戸籍の附票
※遺言者の登記簿上の住所と戸籍謄本の本籍とを関連づけるため
相続人全員の戸籍謄本
※遺言者の相続人であることを証明するため
当該不動産の登記済証もしくは登記識別情報
相続人全員の印鑑証明書
※3ヶ月以内のもの
受遺者(もらう人)の住民票
固定資産税評価証明書または固定資産税の納税通知書
運転免許証、保険証などの身分証明書
※相続人と受遺者の本人確認のため
遺贈登記の登録免許税
遺贈による所有権移転に伴う登録免許税の税率は、原則的に贈与の場合と同じく、固定資産税評価額の2%(1000分の20)です。
ただし、受遺者(もらう人)が遺言者の法定相続人である場合に相続による所有権移転登記と同じ0.4%(1000分の4)に軽減されます。
この適用を受けるためには、受遺者が相続人であることを証明するために戸籍謄本を提出する必要があります。
<ここがポイント!>
☑ 受遺者が第三者の場合は2%、相続人の場合は0.4%
不動産の遺贈と司法書士
司法書士は登記の専門家なので、遺贈を原因とする所有権移転登記をおこなうことができます。
遺贈の登記は、上記のとおり、登記権利者である受遺者と登記義務者である相続人全員もしくは遺言執行者との共同申請ですが、実務上は司法書士が双方の代理人となって登記申請することが多いです。
また、遺言執行者がいる場合といない場合で必要書類が変わってくるので、一般の方が自ら遺贈の登記を申請するのは現実的に困難といえます。
よって、遺贈の登記は司法書士にお願いするのが安全で確実です。
<ここがポイント!>
☑ 遺贈の登記は登記の専門家である司法書士にお願いするのが安全で確実
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